ジャンルを越える音楽を生む スタジオ兼住居
24時間音楽演奏が可能な防音マンション「ミュージション」の部屋を訪ねて、“音楽のある暮らし”をのぞき、その魅力を語る企画。第3弾は、編集部がリブランマインドミュージション担当の戸口と営業スタッフとともに、「ミュージション野方brio」にお住まいのアーティスト、板東靜(しづか)さんのお宅へお邪魔しました。
「次世代型マルチリンガル音楽家」という肩書きを持つ板東さん。地元大阪から上京し、ここでの暮らしを始めたそう。日常のなかでメロディーが浮かんだら、書き留める前に演奏する。そんな音楽が中心にある暮らしの魅力とは?
探していたのは、「住めるお寺」
板東さんいらっしゃい〜! ささ、どうぞ座って。
営業スタッフお邪魔します! 実は先日、板東さんのコンサートにお邪魔したんです。とても不思議な感覚を体験するコンサートでした。あの日の演奏は即興ですか?
板東さんそうですね。コンサート当日が満月だったので、そこからインスピレーションを受けたものをFazioliのピアノを使って即興で弾いていました。
戸口とても独特なスタイルですよね。以前は大阪にも拠点があったそうで。
板東さん東京ではシェアハウスに属して、そこを拠点に東京と大阪を行き来していました。そこからいよいよ東京に拠点を絞ろうと思い、24時間演奏できる部屋をネットで探していたらミュージションが出てきて。評判も良かったし、内覧してすぐに「ここに住みたい!」と思いましたね。
編集部ミュージションは都内に数件ありますが、「野方brio」を選んだ理由は?
板東さんアクセスの良さですね。上京した頃は、土地感覚がないので出来るだけ新宿に近い方が良いなと思ったんです。それに、私は「お寺」感覚で住める部屋を探していて。お寺って、精神を集中させる時間と清々しいリズムがあるじゃないですか? ミュージションは部屋の明るさもベランダからの眺めも良いし、ぴったりの「お寺」だなと。
「音」だけが「音楽」ではない
戸口音楽を始めたのはいつ頃ですか?
板東さん3才でピアノを始めて、小中学生の頃は市が主催する楽団に所属してラッパを吹いていました。ただ、どうしても集団行動に馴染めなくて。そんな時に、私の第一言語となってくれたのが音楽。音楽を通してなら社会とか関わっていける。その形を模索し始めたのが10代の時かな。
編集部ずいぶん早い時期から将来のことを考えていたんですね。
板東さん祖母は着物職人、祖父はガラス職人、曽祖父は家具職人……という職人家系で、普通に企業に務めている人が身内にいなかったのも影響しているのかも。とはいえ、「音楽をやりなさい」と言われた訳ではなく、むしろ反対されていました。みんな手に職をつける厳しさを知っているので、「一生楽しくやるなら趣味でやれ!」と。ピアノは毎日練習することと、10年辞めないことを約束して、ようやく習わせてもらったんです。
戸口うちの娘もちょうど3歳ですが、そんな難しい約束はできなさそう……。音楽家を志したのは?
板東さん15歳の時に母親から「音楽で生きていくのか決めなさい」と言われたんです。それで覚悟が決まって、芸大卒業後はニューヨークにいる国際的な音楽プロモーターのもとへ修行に行きました。その方は60年以上向こうに住んでいて、日本から海外に初めて歌舞伎や狂言、能の文化を伝えた方。ちなみにダライ・ラマ14世とも長年の親交があり、その後私もインドで謁見の機会を頂くことができました。
編集部何だかスケールが大きいですね(笑)。
板東さん柔らかいおじいさんでした(笑)。もともとインド伝統音楽には興味があったのですが、そういった経緯でその後何度もインドに行くことになり、インド文化にさらに深く影響を受けることになりました。営業スタッフさん、インドには音階が何個あるのかご存知ですか?
営業スタッフえっと、西洋の音階は単調と長調を合わせて24個ですよね?
板東さん実は、インドには何千個もの音階があるんですよ。
営業スタッフえっ。
板東さん基本は即興ですけど、細かいルールがあって適当に演奏している訳ではないんです。例えば、雨の日に晴れの音楽はやらないとか、季節や天気、時間帯など、その場の雰囲気を追究して音を奏でている。だから、二度と同じ音楽が生まれない。それを知ってから、私も「この瞬間でしかつくれない音を出したい」と思うようになりましたね。
編集部それが、「次世代型マルチリンガル音楽家」としての活動に繋がっていくんですね。
板東さん私はコンサートでバッハも弾けばマイケルジャクソンも弾きます。即興することもあれば、旅先で集めた音を紡いで曲をつくったりもすることもある。「あなたはどのジャンルに属するの?」と聞かれても、今の世の中にある既存の枠組みに当てはめることができないんです。
営業スタッフ私のようにクラシックしか知らない人間にとっては、ジャンルを飛び越えて演奏されるコンサートでの体験は衝撃でした。でも、音楽はもともとジャンルを問わず、どれも心から楽しむために生まれたものだったはずですよね。板東さんはその根源的な部分を掘り下げて、音楽の世界の幅を広げてくれたような気がしました。
板東さん 例えば、ある曲をドレスを着た綺麗な女性が舞台で歌うのと、路地裏でおじいさんが座り込んで歌うのとでは、きっと違うものに感じますよね。音楽ってそうした視覚的なものだったり、身体表現だったり、衣装だったりと、必ずしも音だけで表現されているのではないと思っていて。CDでも楽譜があるかないかで陳列する棚が分かれたりしますけど、時代を越えて残る音楽というものほど、カテゴライズできない気がするんです。まぁ、「次世代マルチリンガル音楽家」という名は、今年思いついた肩書きなんですけどね(笑)。
家事をしながら曲づくり
編集部作曲は家でされることが多いんですか?
板東さんシンセサイザーやピアノで弾いた音を録音して、洗濯物を干したり、料理をしたりしながら聴いていることが多いですね。
編集部へぇ〜。勝手な想像ですが、曲づくりってスタジオで集中してするイメージがありました。
板東さんミュージションは防音性能が高いので、わざわざスタジオに出向く必要はありませんね。メロディが閃いた時にいつでも演奏できるので、集中して曲を制作することができます。それに、お腹が空いたらすぐに自分でつくって食べられるのも嬉しい。私、食いしん坊なんです(笑)。
編集部住まいとスタジオの機能を兼ね揃えているんですね。ちなみにお料理は何をつくることが多いんですか?
板東さんやっぱりお好み焼きかなぁ。大阪出身ですから(笑)。
「引っ越すことになっても、またミュージションに住みたい」と板東さん。暮らしの行為と創作への意識が常に隣接して、日々交差し続けるスタジオ兼住居。どこまでも音楽に傾倒できる空間が、アーティスト活動を支える基盤となっています。
企画:株式会社リブランマインド
⽂:原⼭幸恵(tarakusa)
写真:⼩賀康⼦