MUSISION LIFE

想像力でハーモニーをつくる ミュージション生まれの合唱団

合唱団 / ミュージション野方
みんなの合唱団さん

中野区にある「ミュージション野方」。ここでは “音楽のある暮らし”をもっと楽しみたいと集まった人々によって、月に一度、ユニークな合唱の練習が行われています。「みんなの合唱団」という名のもとに活動するみなさん。一体、どの点が普通の合唱団と違うのでしょう? まさに練習中だというミュージションへ、編集部が飛び込みました。

多ジャンルの音楽好きが集まる合唱団

講師はプロのバリトン歌手として国内外で活躍する髙橋正典さん。時折ユーモアを交えた話でメンバーを和ませる。

戸口「みんなの合唱団」にようこそ〜!

編集部マンション内で合唱団が編成されている上に、こんな共有ホールがあるなんて。この合唱団の活動はいつから?

戸口2016年の夏からです。この共有ホールは、ミュージション野方の物件オーナーが音楽好きということもあって設えられました。このグランドピアノも、私物をご好意で貸してくださっています。この恵まれた環境を活かしたいと考えていた時、入居者のなかに中高時代に合唱をしていた方が多いという噂を耳にして、「これだ!」と。大人になると、みんなで声を合わせて歌う機会ってあまり無いですよね。そこで、気軽に集まることができて、クオリティも追求した合唱団をつくれたらと思って声楽家の髙橋正典さんに講師を依頼したんです。

リブラン宣伝部でミュージション担当の戸口(右)は音大の声楽科出身。髙橋さんのレッスン日のほかにも参加者を集めて自主練習を行う。

髙橋さんミュージションは、僕の音楽仲間の間でも「遮音性が高い」と評判でした。「演奏可能な物件でオススメは?」と聞くと、必ず最初にミュージションが挙がって来るんですよ。戸口さんから声を掛けられた時は、「響きも良いこの恵まれたホール環境で合唱の練習ができるなんて面白いな」と思って受けることにしました。

戸口入居者と知り合いに声を掛けて、10名ほどのメンバーからスタートしました。最初は格好良く洋楽を歌うことを目指して活動していたんですけど、英語より日本語の方がみんなノリやすいということが判明して(笑)、今では邦楽のポップスやアニソンなども歌うようになりました。ただ、そのなかには合唱用に格好良くアレンジされていない曲が多くて。それを「どうしようかな……」と悩んでいると、メンバーの白川可奈子さんが編曲を手掛けてくださるようになったんです。白川さんはシンガーソングライターとして活動されているんですよ。

白川さん以前はミュージション志木に住んでいて、ピアニストである入居者の方と一緒にミュージション内でライブを開催したりもしていたんです。もっと色々な方たちと音楽を楽しみたいと思っていた時、合唱団のことを聞いて「面白そうだなぁ」と思って参加することにしました。これまで合唱の編曲はしたことは無かったのですが、チャレンジしてみようと思って。先生からアドバイスをいただきながらやっています。

現在、メンバーは入居者とそれ以外の方を合わせて20名ほど。

戸口この合唱団には、プロの音楽家をはじめ多様なバックグラウンドを持つ方が集まっているんですよ。たとえば、英語講師として働くメンバーが英語の歌詞の美しい発音を教えてくれたり、ヨガ講師が発声の前に「このポーズなら声が出しやすくなりますよ」と教えてくれたり。多才な集まりだなぁって思います。

音楽に“正しい”はない

編集部レッスンにおいて髙橋さんが大切にしていることは何ですか?

髙橋さん技術はもとより、いかに「楽しい」と感じられるかを大事にしています。当然プロとそうでない場合でシチュエーションは違いますが、なるべく専門用語は使わず、ユーモアを交えながら楽しく教えるようにしています。

編集部そう考えるようになったきっかけは?

髙橋さんもとを辿ると、イタリアで合唱団を経験したことが僕の考えの基盤になっているのかもしれません。フィリピン人やアメリカ人、イギリス人、ガーナ人、ドイツ人と一緒に合唱団を結成して教会でコンサートを開くことになったんです。いざ練習を始めたのですが、喉がおかしくなるくらい喋らないと聞いて貰えなかったり、一緒に歌っても全然音が取れなくて落ち込んだりしました。参加者のなかには練習に来なくて、コンサート当日だけ来るなんていう人もいたくらい。それなのに、本番が始まったら良い感じにハモっている。「一体これは何だろう……」って驚きました。その時、楽譜にあるものを完璧に仕上げることも大切ですが、「楽しさ」を優先する方が時代にフィットしているのかもしれない、と思ったんです。

戸口参加するメンバーのなかには、楽譜を読めなかった人もいるんですよ。ね? 松本さん(笑)。

松本さん僕も初見で音を取ることが難しかったですね(笑)。でも、髙橋さんって、いわゆる日本の合唱の先生にはいないタイプなんです。音を外さずに歌うことよりも、曲が持つメッセージ性を理解することを大切にされている。とはいえ、僕のパートはひとりしかいないので、音を外したらすぐバレてしまいますけどね……。

唯一のテノールパートの松本淳さん(左)は、仕事での音楽活動の幅を広げるために合唱部に参加した。ソプラノパートと編曲を担当している白川可奈子さん(右)は、ジャズスタンダードから完全即興までジャンルを超えて歌うシンガー。

髙橋さん実はご縁があって、『THEカラオケ★バトル』というテレビ番組に出たことがあるんです。その時、色んな方との出会いを通じて自分がいたオペラの世界がいかに小さいかということを知りました。一般的に合唱というとクラシカルなニュアンスで歌うことが前提になっているけど、必ずしも同じやり方である必要はない。形にこだわらないということ自体が、これからの時代にすごく必要だと思うんです。もちろん良い声が出るのは素晴らしい。でも、僕は音楽の楽しさを追求することをより大切にしたい。そこにメンバーのみなさんが共感してくれているのかな、と思います。

五感をフル稼働して実験する

最年少は小学生の女の子。なかには髙橋さんに「良い声だね」と直々にスカウトされて入ったというリブランのスタッフも。

松本さんそれに、教え方が面白いんですよ。大きな声を出す時に「喉を開いて!」ってよく言われませんか? でも、先生は「魚を丸ごと飲み込む感じ!」と分かりやすく表現してくれる。ほかにも「チョコレートの甘さが口のなかで広がるようなイメージで歌ってみて」とか。

編集部チョコは食べずに……ですよね?

髙橋さん想像するだけ。でも、それだけで声がすごく変わるものなんです。五感を使って脳で処理したことが声として現れてくる。

松本さん同じフレーズを繰り返す曲があって、先生に「フレーズごとに色を変えて歌ってみて」と言われたんです。一回目は青、二回目はピンク、その次は緑。そしたら、本当にみんなが色を想像して歌っているのを感じたんです。あれは共同幻想的だった。

編集部まさに実験しながら進めているんですね。

白川さん参加する度に新しい気付きがあるんです。正直、音楽って衣食住の軸で考えると無くてもいいものじゃないですか? でも、美味しいものを食べるように、良い音楽に触れている方が人生は豊かになる。何より、こんな素敵な先生のレッスンをこんな整った環境で受けられるなんてほかにはないですよ。

戸口これからもメンバーを増やしていきたいので、これまで音楽を経験したことが無い方でも、興味があれば遊びに来てほしいですね。

松本さん気軽に参加できるので、ぜひ男性にも来ていただきたい。僕はミュージションを運営しているリブランの姿勢も好き。物件を広く開いて音楽の楽しさを共有してくれるところがね。

髙橋さんメンバーが増えたらまたいろんな実験が出来ますね。いつかみんなの歌でお客さんに感動を与えよう。

目標は、近い将来大きなホールでコンサートを実現すること。「その前にオリジナルの曲もつくりたい」と、やりたいことは尽きない。

「形に捉われず、自由に音楽を楽しみたい」と話すみなさん。「みんなの合唱団」の新しい音楽の楽しみ方を探る実験が、ミュージションで始まっています。


企画:株式会社リブランマインド
⽂:原⼭幸恵(tarakusa)
写真:⼩賀康⼦

 

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